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長野地方裁判所松本支部 昭和62年(ワ)139号 判決

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告は、被告が計画中の長野県営松本空港の拡張工事(別紙図面斜線表示の部分)をしてはならない。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  (本案前の申立)

主文第一項と同旨

2  (本案の申立)

(一) 原告らの請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  松本空港(以下「本件空港」という。)は、被告の設置・管理にかかる第三種空港で、全長一、五〇〇メートルの滑走路を備え、現在、同空港と大阪空港との間にYS一一型プロペラ機の定期便が一日二往復就航しているが、被告は、滑走路を拡張してジェット機の定期便等を就航させる、いわゆる「松本空港拡張ジェット化計画」(以下「本件ジェット化計画」という。)なるものを推進し、現在、平成三年三月の完成を目指して右滑走路を北側に三〇〇メートル、南側に二〇〇メートル延長する別紙図面斜線表示の拡張工事(以下「本件拡張工事」という。)の準備を進めている。

2  原告らは、いずれも本件空港の北側に隣接する松本市神林地区に居住する住民であるが、同地区は、同空港の北端から約二、〇〇〇メートル以内のところにあって、同空港に離着陸する航空機の飛行経路の直下に所在し、本件拡張工事が完成すれば、原告らのうち近い者で、滑走路北端から六百数十メートル、進入路指示灯から三〇メートル、遠い者でも同北端から一、七〇〇メートル以内に位置することとなり、しかも、本件空港を利用するジェット機のほとんどは、進入路指示灯が滑走路北側にのみ設置されることや地形上の理由等から、滑走路北側において離着陸し、その際、ジェット機の高度は僅か五〇ないし一〇〇メートルとなる。

3  (本件ジェット化計画)

(一) 本件空港は、標高二、〇〇〇ないし三、〇〇〇メートルの山脈に囲まれた狭隘な松本盆地の中にあって、標高六五六メートルの高さに位置し、同空港を離着陸するジェット機は、その地形の影響を受けて発生しやすい乱気流や雷に遭遇し、パイロットの操縦ミスと相俟って墜落する危険性は他空港に比べてはるかに高く、しかも同空港にはジェット機就航にあたって設置が原則とされている計器着陸装置(ILS)の設置は、地形上(同空港は着陸決心高度が高いため空港間近まで誘導できない。)並びに法規上の理由(航空法施行規則が要求する三〇〇メートルの着陸帯が確保できない。)から不可能となっている。

(二) 本件ジェット化計画は、昭和五五年三月一四日における長野県議会の「県営松本空港の拡充整備に関する意見書」の可決に始まって、昭和六一年一一月に国の第五次空港整備五箇年計画(昭和六一年度~平成二年度)に編入されるに至っているものであるが、その内容においては、滑走路の長さ、方向等についても目まぐるしく変更されてきたのみならず、航空旅客需要予測、予定運航路線や予定就航機材についても一定することがなく、飛行の安全性の確認・検討も全くなされないままに進められてきた。しかも、被告は、原告ら神林地区の住民から、昭和三七年四月本件空港の開設に対する同意をとりつけるにあたって、当時の松本市長降旗徳弥をして、将来、本件空港を「拡張しない」「ジェット化しない」「軍用機を飛ばさない」旨を約束させたのであるから、右約束は、本件空港開設の事業主体であった被告を拘束するものであって、本件ジェット化計画は右約束にも違反する。

4  (人格権侵害)

本件ジェット化計画が実現されれば、一三〇人乗り以上の規模の小、中型ジェット機が一日五往復(松本・大阪間三往復、松本・福岡間二往復)運航し、原告ら神林地区の住民は、頭上僅か五〇ないし一〇〇メートルの高度を離着陸するジェット機により、墜落の不安・恐怖、騒音、排気ガス、振動、屋根瓦のずれ、ノイローゼ等の精神的障害、難聴・耳鳴り、鼻血等の身体的障害、病気療養中の者に対する悪影響、睡眠妨害、会話及び電話通話の妨害、テレビの視聴障害、思考中断、一家団欒等の家庭生活の崩壊、交通事故発生の危険の増大、農作物の被害、洗濯物の汚れ、居住地区の荒廃、授業の妨げ、落下物等の被害など極めて多岐に亘る被害を日々被ることになることは必定であり、その程度は受忍限度をはるかに超え、原告ら及びその家族の平穏・安全な生活は根底から破壊されるから、原告らの人格権を侵害することは明らかである。

そして、およそ、個人の生命、身体の安全、精神的自由は、人間の存在に最も基本的なことがらであって、法律上絶対的に保護されるべきものであることは疑いがなく、また、人間として生存する以上、平穏、自由で人間たる尊厳にふさわしい生活を営むことも、最大限尊重されるべきものであって、憲法一三条はその趣旨に立脚するものであり、同法二五条も反面からこれを裏付けているものと解することができる。このような、個人の生命、身体、精神、および生活に関する利益は、各人の人格に本質的なものであって、その総体を人格権ということができ、このような人格権は何人もみだりにこれを侵害することは許されず、その侵害に対してはこれを排除する権能が認められなければならない(昭和五〇年一一月二七日大阪国際空港夜間飛行禁止等請求事件大阪高裁控訴審判決参照)。

5  ところで、本件拡張工事に対する本訴差止請求は、民事訴訟法二二六条に規定する将来の給付の訴えとして提起したものであるが、被告は、平成二年四月には本件拡張工事に着工しようとしているのであるから、原告らがあらかじめ本訴差止請求をなす必要性があることは明らかである。すなわち、被告は、平成元年度の予算編成において右拡張工事の準備費として一億六、三〇〇万円余を計上しており、そのうちの一億二、一〇〇万円は本件拡張工事のための用地測量や地質調査、関連道路の基本設計などに要する費用である。そして、被告はすでに拡張予定地の地権者との間で用地買収の同意をとりつけ、買収のための事前折衝にはいっており、自らも、平成元年八月に行われる運輸省の概算要求を経て、平成二年四月には、本件拡張工事に着手できる運びになっていると説明している状況であって、本件拡張工事着工に先立って、平成二年四月に被告がなす予定の本件空港の施設変更許可申請の段階において、本件拡張工事の内容(乙第一七号証)が大きく変更されることはありえない。したがって、本訴差止請求が将来の給付を求めるものであるといってもその対象は確定的であり、原告らが現段階において差止請求を行うことの必要性は明らかである。

6  よって、原告らは被告に対し、人格権を侵害する本件ジェット化計画に基づく本件拡張工事の差止を求める。

二  被告の本案前の主張

原告が、本訴差止請求の根拠として主張する人格権侵害は、本件ジェット化計画に基づいてジェット機が飛来することにより発生するというものであるが、本件ジェット化計画に基づく飛行事業計画が実施されるまでには、本件拡張工事について国によって予算措置が講じられることのほか、運輸大臣による飛行場施設及び航空保安施設の変更許可その他多くの手続を経なければならないものであるところ、いまだこれらの手続が完了していない段階における同工事に対する本訴差止請求は、将来の給付の訴えの要件を欠く不適法のものであるから、却下されるべきである。

三  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実中、原告らが、松本市神林地区の住民であること(ただし、住民基本台帳上の記載において)、同地区は本件空港の北端から北側約二、〇〇〇メートル付近に位置すること、同地区(ただし、その一部)が本件空港に離着陸する航空機の飛行経路の直下となること(なお、原告らの居住地は、大部分「直下」といいうる位置には所在しない。)、本件空港を利用する航空機の離着陸に際しては、滑走路の南側に比して北側が多く使用されることは認めるが、その余は否認する。滑走路の北側への延長は、神林地区ではなく、松本市今井地区においてなされるものである。また、本件拡張工事が完成すれば、原告らのうち近い者で、滑走路北端から約七五〇メートル、もっとも遠い者で同北端から二、〇三〇メートルも離れている。本件拡張工事完成後、本件空港を利用する航空機の飛行高度は、最も低くなると予想される着陸時においても約七〇メートルないし一四六メートルが確保されている。

3  同3(一)の事実中、本件空港が松本盆地の中の標高約六五六メートルの高さに位置すること、乱気流が発生することがあること、本件空港にILSが設置されないことは認めるが、その余は否認する。本件空港周辺地域において、運航の危険に直結するような乱気流や雷の異常多発が認められないことは、専門家による気象調査から十分に確認されている。そもそも雷による航空機事故は極めて稀有であって我国では過去に落雷による墜落の事例は存しない。また、ILSの設置は必須のものとはされていない。ILSが設置されない場合でも他の機器、例えば、VORを利用した進入方式を設定すること等により安全性は確保されるのである。本来、離着陸の可否は、安全運航の確保の見地から具体的な気象条件に応じて決定されるべきものであるうえ、被告は、本件ジェット化計画については、所管庁の事前の指導を得てきており、今後も所要の許認可を得てこれを実施し、本件拡張工事の成った本件空港の供用開始に際しては、本件空港の特殊事情を十分に考慮しつつ、運航に関する諸規制、離着陸に関するマニュアル等にしたがって運航の安全性が十分に確保されるところであるから、本件空港に関して原告らが主張するようなジェット機墜落の危険性が存するというのはあたらない。

同3(二)の事実中、昭和五五年三月一四日の長野県議会において「県営松本空港の拡充整備に関する意見書」が可決されたこと、国は、昭和六一年一一月に本件ジェット化計画を第五次空港整備五箇年計画の中に採択したことは認めるが、その余は否認する。

4  同4の事実中、本件ジェット化計画においては、一三〇人乗り程度のジェット機(小型である。)の一日五往復の運航が想定されていることは認めるが、その余は否認する。

5  同5は争う。

6  同6は争う。

四  被告の主張

1  人格権なる権利は、実定法上の根拠を欠くのみならず、その内容・効果についても法律的論証を経ていない未成熟な概念であり、これを損害賠償請求の対象たりうる生活上の利益と解する余地はあるとしても、差止請求権の根拠とすることは困難である。しかも、仮に、人格権を根拠とする差止請求を容認する余地があるとしても、その場合には、公共性や受忍限度からの制約は免れず、侵害行為の態様・程度・継続性、被侵害利益の内容・性格・程度、それに対する防止対策、侵害を生ずべき行為の社会的有用性ないし公共性・地域性、公法上の規制基準との関連等との相関的衡量が図られるべきである。しかるところ、長野県が本州内陸部に位置するという地理的特性に加えて、現在、本件空港路線に就航しているYS一一型プロペラ機の製造は中止されており、早晩、ジェット機に代替せざるをえない現状に照らせば、かかる高速交通機関を整備しようとする本件ジェット化計画は、極めて高度の公共性があることは明らかであり、また、本件空港は、長野県随一の広さを有する松本平に位置し、利用者のアクセスに優れ、周辺地区の大部分は農業振興地域及び市街化調整区域に指定されていて、人家が比較的少なく、本件空港に隣接して工業団地、運動場、公園等の緑地が多く存在し、さらに投資規模・工期等の建設技術的条件等をも伴わせ考慮すれば、本件空港は、長野県下におけるジェット化空港の立地条件として最適であるところ、前記のとおり、気象条件はもとより、本件空港の特殊事情を十分に考慮しつつ、運航に関する諸規制、離着陸に関するマニュアル等にしたがって運航の安全性は十分に確保されるうえ、本件ジェット化計画に伴う本件空港周辺地区の環境への影響についても、十分な調査・検討が行われ、騒音・振動はもとより、大気質・水質・土壌汚染等はいずれについても極めて小さく、明らかに受忍限度を超えないことが確認されているのであって、以上のような諸事情を総合勘案すれば、本件拡張工事に対しては、人格権を根拠とする差止請求を容認する余地はないものというべきである。

2  そもそも、本件空港の拡張整備を進めるためには、空港整備法に基づく補助金にかかる国の予算措置が不可欠の前提である。すなわち、本件ジェット化計画について、〈1〉被告において各種調査の結果に基づき国に対し予算要求を行い、〈2〉国において検討の上、予算措置を講じ、これに応じて被告においても予算措置を講じ、〈3〉その後、航空法に基づく飛行場施設及び航空保安施設の変更許可申請その他同法所定の手続を経由して初めて空港拡張工事の実施が可能になる。しかるに、本件ジェット化計画は、現在、右〈1〉の段階にとどまっていて、本件拡張工事に現実に着工する段階までには至っていない。しかも、原告らは、本件ジェット化計画の内容が変更された過去の経緯を云々し、その安全性等を論議するが、差止請求権の存否は、現段階における本件ジェット化計画の内容及びその進捗状況について検討すれば足りるものであるところ、今後本件ジェット化計画が実現するまでには、関係行政庁の関与による各種の手続が履践され、その際に、安全性はもとより環境への影響等も十分に配慮されるのであるから、現段階において本件ジェット化計画の当否の判断を前提とする原告らの差止請求は失当というべきである。

五  被告の主張に対する原告らの認否

被告の主張1、2は争う。

第三  証拠(省略)

理由

一  被告の本案前の申立について判断する。

請求原因1の事実並びに、原告らが居住していると主張する松本市神林地区は、本件空港の北端から北側約二、〇〇〇メートル以内のところに位置すること、同地区の少なくとも一部は、本件空港に離着陸する航空機の飛行経路の直下となること、昭和五五年三月一四日の長野県議会において「県営松本空港の拡充整備に関する意見書」が可決されたこと、国は昭和六一年一一月に本件ジェット化計画を第五次空港整備五箇年計画の中に採択したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二ないし第四号証、第一九号証、乙第一ないし第七号証、第八ないし第一六号証の各一、二、第一七号証、第一八ないし第二〇号証の各一、二、第二一ないし第二五号証、第二六号証の一、二、第二七号証、第二八号証の一、二、原本の存在及び成立に争いのない甲第一号証、第一六号証、第五八号証の一、二、第五九号証及び証人丸山岩男の証言を総合すれば、本件ジェット化計画なるものは、被告において昭和五四年八月より翌五五年一月にかけて実施した本件空港拡張可能性等調査を経て、前記同年三月一四日における長野県議会の「県営松本空港の拡充整備に関する意見書」の議決によって、その具体化に向けての作業に着手されることとなり、需要予測・経済・開発効果・気象・基本測量・基本地質・騒音影響予測・環境影響評価等の調査並びに本件空港の整備(拡張)計画を策定しては検討のうえ修正する等の作業を経て、ようやく昭和六二年七月ころ本件拡張工事を内容とするものとして被告においてほぼ固まったが、そこにおいては、就航想定航空機を一三〇人乗りのMD87型ジェット機とし、平成七年に松本・大阪間一日三往復、松本・福岡間一日一往復(平成一二年には二往復)の運航を想定していること、また、本件空港関係地方自治体である訴外松本市及び同塩尻市の各市議会は、昭和五七年から同五九年にかけて相次いで本件空港拡充整備の促進を求める議決をし、本件ジェット化計画も、前記のとおり、国の第五次空港整備五箇年計画の中に採択され、被告は、昭和六三年八月までに本件空港周辺関係各地区の多数住民を代表するものとして同計画に対する対策を協議するために組織されたそれぞれの地区連絡協議会あるいは委員会等のすべてから本件拡張工事に対する同意及び同工事に必要な用地の地権者の九六・九パーセントから用地の売渡同意等を得るまでに至っているが、今後、本件拡張工事が実際に着工されるまでには、運輸省に対し、大蔵省に本件拡張工事に対する国庫補助金にかかる予算の概算要求をなすよう求め、次いで、大蔵省の査定を経て国によって予算措置が講じられることが不可欠の手続段階となっているほか、多くの航空行政上の手続、すなわち、被告の運輸大臣に対する飛行場施設及び航空保安施設の変更許可申請(航空法―以下「法」という。―四三条一項、二項、三八条二項)、右許可申請に関する運輸大臣による告示等(法四三条二項、三八条三項、航空法施行規則―以下「規則」という。―八七条)、運輸大臣による公聴会の開催(法四三条二項、三九条二項)、運輸大臣による右許可申請に対する審査と許可(法四三条一項、二項、三九条一項)、右許可に関する運輸大臣による告示等(法四三条二項、四〇条)を経なければならないし、また、実際に航空機が就航するまでには、運輸大臣による定期航空運送事業者の提出する運航機種、運航回数、発着日時等に関する事業計画に対する審査と認可(法一〇一条一項、一〇九条一項、二項、規則二一〇条、二二〇条)及び同事業者の作成する運航規程・整備規程に対する認可(法一〇四条一項、二項、規則二一六条)をも経なければならないことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

ところで、原告らの本訴差止請求は、本件ジェット化計画に基づきジェット機が将来、飛来することになれば、原告らの人格権が侵害されることとなるから、人格権に基づいて、本件ジェット化計画実現の前提段階にある本件拡張工事の差止を、本件空港の設置・管理主体たる被告に対して求めるというものであって、もとより、本件拡張工事自体、もしくは工事の結果たる滑走路並びに付帯の諸施設自体が原告らの人格権を侵害するというものではない。したがって、原告らの本訴差止請求は、あくまでも、本件ジェット化計画において想定されている飛行事業計画を前提としたものであるところ、前記認定の事実関係のもとにおいては、本件ジェット化計画において想定されている飛行事業計画は、今後、現実にジェット機が就航するまでに履まれるべき、国が関与する多くの手続の過程において、その当否について検討が加えられ、変更される余地のあるところのものであって、航空行政手続上、いまだ、本件ジェット化計画の最終的な内容(定期航空運送業者による事業内容)及びその当否について確定的な検討がなされるべき段階にまでは至っていないのであるから、原告らの人格権侵害の内容(態様・程度等)そのものがいまだ不確定のものというべきである。

しかるところ、原告らの本訴差止請求は、将来の給付の訴えとして提起されたものであるが、その内容が本件拡張工事の差止を求めるものであることに照らせば、原告らは、将来、国によって予算措置も講ぜられ、運輸大臣による飛行場施設及び航空保安施設の変更許可等がなされて本件拡張工事を施工することが現実のものとして確定するという一定の事実の発生するまでには、差止請求の要件たる権利侵害行為の存在の蓋然性が確定するから、それを前提として、あらかじめ、差止請求権の存否の判断を求める趣旨のものと解されるが、しかし、前説示のとおり、現段階において、原告らの人格権侵害の内容そのものがいまだ不確定のものというべきであり、まして、現時点において、将来の右一定の事実発生の時点に立って、さらに将来の原告らの人格権侵害の内容を予測して、差止請求権の存否を検討することは、不確定な要素のうえに立って、さらに、不確定な要素を前提として検討を進めることとなり、かかる検討は、とうてい当事者間における権利関係の確定を図る所以のものではないから、本訴差止請求は、将来の給付の訴えとしての要件(民事訴訟法二二六条所定の「予メ其ノ請求ヲ為ス必要」)を欠くものというべきである。

二  そうすると、原告らの本訴差止請求は、その余の点につき判断するまでもなく、不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

別紙図面省略

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